中国プログラミング教育最前線(6) 山東師範大学情報科学工程学院
2018年06月01日
ニュース
山東省済南市にある山東師範大学は、山東省でもトップレベルの総合大学だ。約3万7000人の学生と約2400人の教員を擁し、教員養成を主眼とする。元情報科学工程学院院長で現在情報技術局長を務める劉方愛先生に、プログラミング教育の現状を聞いた。
教員育成と即戦力技術者の養成を目指す
山東師範大学は、1984年にコンピュータ系専門学科を開設。1995年には、情報センターと情報専門学科をまとめて情報科学工程学院を設置した。現在は、主にプログラミングを教えるコンピュータ・サイエンス学課、IoTなどのハードウェアを含む通信学課、そして、大学全体の学生を対象にコンピュータの基礎を教える教育学課の三つのコースに分かれている。情報科学工程学院の学生は現在1855人で、大学院生が238人。博士課程に30人が所属している。教員は全部で95人で、うち教授が16人、副教授が27人、博士が9人という陣容だ。
情報科学工程学院のコンピュータ教育は、大きく分けて二通りの人材育成を目指している。一つは教師の育成で、これは師範大学の性格上、欠かせない要素だ。もう一つは、卒業後即戦力として働くことができる応用型人材の育成だ。教師の育成については、理論と技術基礎を重視。学卒で教師になる数は少なく、院卒から教師になる例が大半という。
即戦力の応用型人材の育成では、ハードやソフトの技術研究を通じて得た深い理論的な知識をバックボーンに、就職時に力を発揮できる教育に力を入れている。ソフトウェア開発や、主に日本向けアウトソーシング開発の対応などのついても教育する。とくに山東省にある中国を代表するサーバーベンダー、浪潮(insper)と連携して、「2+2」のカリキュラムを組んでいる。これは、大学で2年間基礎知識を勉強した後、2年間会社でインターンとして働くことで、より実践的な人材育成を行う取り組みだ。
プログラミングコンテスト入賞で給料が2倍の事例も
学生は、入学1年目は学科に分かれず、英語や哲学など教養学課とあわせて等しくコンピュータの基礎知識を学ぶ。ここでは、ソフトウェア設計や数学、データベース構造、電子工学などの基礎を身につけていく。コンピュータ言語はCとJAVAが中心だ。2年目からは、前述のコンピュータ・サイエンス、通信、教育の三つの学課に分かれて専門知識を深めていく。師範大学だけあって、最も人気があるのは教育学科。コンピュータの教師を目指す女子学生の比率が高い。各学科ともに定員が定められているので、1年次の成績によっては希望の学課に進むことができないケースがあるのは、日本の大学と同じだ。
3年、4年と進むにつれて、それぞれの学課でより実践的な内容に深化していき、Oracle、Pythonなどが加わっていく。4年生になると、半年ほど企業のインターンや学校での教育実習を通じて実践力を高め、卒業設計などに入っていく。大学院に進むのは3割ほどで、教員志望が多い。残りの6~7割が学卒で企業に就職する。うち8~9割はIT系の企業か、一般企業のIT部門に就職できているようだ。大学で勉強したことが直接、間接に役立つ環境だ。
情報科学工程学院の学生が参加するプログラミングなどのコンテストには、毎年11月に表彰式が行われる「山東省大学生ソフトウェア設計コンテスト」を筆頭に、「挑戦杯」や世界大会のACM-ICPCなどがある。山東師範大学は、これまでアジア大会で金メダルを獲得した実績がある。このほか、中国全土を対象とした「インターネットプラス」など、ネットワーク関連のコンテストも人気だという。コンテストを目指す学生には、実験室を開放したり、指導教員をつけたりと、サポート体制は整っている。学生が入賞すれば教師にも奨励金が入ることもあって、指導にも熱が入る。学生にとってもメリットは大きく、入賞すると、大学院の入試が免除されることがある。就職にも有利で、就職後に給料が倍になる例もあるという。人気の分野は、スマホアプリの開発やIoT、ビッグデータ分析などだ。
2020年から日本の小学校で始まるプログラミング教育。最大の課題は指導者の養成だろう。山東師範大学で長年教鞭を執ってきた劉先生に、どうすれば教員を確保できるかについて聞いた。まず、大学の教員については「先生は基礎理論や知識を重視しなければならない。それをしっかり学生に教えることが基本になる。ただ、学校はIoTやAI、ビッグデータなどの先端技術はほとんどもっていない。もっているのは企業だ。産学連携で学校から人材を送るなど、企業と連携しながら教育していく必要がある」と話す。
小学生などの子どもへのプログラミング教育については、「最近は、山東省内の小中学校の授業にロボットやAIなどの要素が少しずつ入るようになってきた。特にロボットのように、かたちのあるモノをうまく使って子どもたちの興味を引き、教育に結びつけていくのが効果的ではないか」と話してくれた。「もし教員が不足するなら、政策として外国からコンピュータの先生を招くことも考える必要があるのではないか」という提案もいただいた。
(ITジュニア育成交流協会・道越一郎)