中国プログラミング教育最前線(5)済南大学情報科学工学学院
2018年04月16日
ニュース
中国・山東省済南市の済南大学は、山東省政府と中国・教育省、山東省の主要な建設大学が共同で設立した総合大学だ。済南市の南部に位置し、全体でおよそ3万7000人の学生が学んでいる。24の学院を擁し、およそ300人の教授、700人の准教授をはじめ、2100人の教員が教鞭を執っている。このうちコンピュータ教育を担う学院が情報科学工学学院だ。ここでコンピュータサイエンス工学科の主任を務める蔺永政教授に、済南大学のコンピュータ教育について聞いた。
4学科で2400人が学ぶ、4年次には実践的な教育を
情報科学工学学院には、コンピュータサイエンス工学科、電子通信工学科、ネットワーク工学科、コンピュータ公共学科の4つの学科がある。学生はそれぞれおよそ600人ずつの計2400人。大学院生はおよそ130人が在籍し、教員は全部で140人を数える。いずれの学科もソフトウェアとハードウェアの両方を取り扱う。
蔺教授が在籍するコンピュータサイエンス工学科では、1年次にC言語を中心にソフトウェアの基礎を学ぶ。ソフトウェア開発では、Javaと.netを中心にAndroidやiOSなども取り扱う。2年次に専攻がコンピュータ系とインターネット系に分かれる。コンピュータ系は、ソフトウェア開発とハードウェア設計などを中心に学ぶ。インターネット系はインターネットの基礎知識とセキュリティの知識などを中心に学び、さらにJavaか.netのいずれかを選んで、それぞれ知識を深めていく。3年次にはコーディングに加え、概要設計から詳細設計など、設計法が入ってくる。ハードウェアについても、システム設計などを学んでいく。4年次には、企業でのインターンなどを通じて実践的な知識と経験を積みながら、卒論に取り組むという流れだ。
今秋にもAI関連専門学科を設置、サーバーの国内トップ企業と連携
蔺 教授は「最近は、プログラミングの基礎の部分からAI開発に親和性のあるPythonも教材として使っている」と話す。実は済南大学はAI関連の教育では定評がある。現在、山東省でAI専門学科を設けているのは唯一青島大学だけだが、済南大学もこの9月の新学期開始を目指し、AI学科を設立する予定で準備を進めている。また山東省のAI関連の研究施設も済南大学に設置されている。AI関連教育は、もともと大学院生向けに展開していたが、2010年から学部生向けに拡大。2014年から本格的なAI関連教育を開始した。そして今年、中国のサーバーでトップシェアを誇るインスパーと連携して、来るべきAI時代に活躍できる人材の育成を開始する。
済南大学情報科学工学学院の卒業生は、15~20%の学生が大学院に進学。70~80%が情報系の企業に就職する。2~3%程度が公務員になったり、海外に留学したりというかたちで、就職する学生のほぼ100%がソフトウェア開発の仕事に就いている。そこからキャリアを積んで、設計やコンサルティングなどに進んでいる事例が多い。「山東省は全国でも2番目に学生が多い省で、全部で毎年約50万人が入学している。そのなかでもコンピュータ関連の学院や学科は人気がある。就職先に事欠かないことも理由の一つだろう。入学時はコンピュータ系を選んだ目的が明確でない学生が多いが、3年生あたりから進路もみえはじめ、就職先をにらみながら実践的な勉強をしていくイメージだ」(蔺教授)。
日本では20年に小学生へのプログラミング教育が始まるが、まだ具体的な内容は決まっていない。若年者のプログラミング教育について、蔺教授に意見を聞いた。「中国でも若年者向けプログラミング教育は始まっているが、省ごとに大きく異なっている。山東省の一部の小学校ではCの授業を行っているところもあれば、広東省・広州の中学校ではPythonの教育を始めているところもある。各地の小学校で特に多いのは、ロボットの組立てなどと組み合わせて。目に見えるかたちで教えていくカリキュラムだ」。蔺教授は、具体的でわかりやすい「モノ」が介在する教育が、子どもにとってわかりやすいのではないか、と語った。
(ITジュニア育成交流協会・道越一郎)