大会初の優勝決定戦を大阪公大が制す、高専プロコンが3年ぶりにリアル開催──作品部門では函館高専と東京高専が最優秀賞

 第33回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)が、10月15、16日の2日間、群馬県高崎市のGメッセ群馬で開催された。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、昨年、一昨年と2年連続でオンライン開催を余儀なくされたが、今回から復旧。3年ぶりにすべての部門でリアル開催を実現させた。群馬工業高等専門学校を主管校に「ここだんべ!日本一熱きITの戦場!」を旗印に、全国の予選を勝ち抜いた44校、84チームが一堂に会し、プログラミングの腕を競った。

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第33回 全国高等専門学校プログラミングコンテストが開かれた、群馬県高崎市のGメッセ群馬

 競技部門では「力あわせる六万人」と題した対抗戦を繰り広げた。題材は、群馬県の郷土かるた「上毛かるた」。上毛カルタにあって群馬県の人口を示した「力あわせる2百万」をもじり、全国の高専生がおよそ6万人であることから、このタイトルとした。あらかじめ用意された読み札の音声データをもとにどの札かを選ぶ、音声解析の競技だ。2名から3名でチームを組み、波形解析のアルゴリズムを駆使して読み札を推定する。

 ポイントは、複雑な出題データだ。まず、一枚の読み札を朗読し音声データ作成。これを2つから5つに分割。分割したデータを、最高で20枚分まで重ね合わせ、出題データを構成する。出題された実際の音は、幾重にも音声が絡み合い、とても人間の耳では判別できないものだった。高専プロコンの競技部門は、解決の手法を問わないのが特徴。もちろんプログラミングで解決することが期待されているわけだが、時には「人力」で正解する猛者も現れる。しかし、今回ばかりは人力で正解するのは極めて難しい問題だったといえるだろう。

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競技部門の決勝戦では大阪公大と弓削商船が同点で1位、大会初の優勝決定戦にもつれ込んだ

 決勝戦では、大阪公立大学工業高等専門学校(大阪公大)の「10倍高速なプログラムを開発します」チームと弓削商船高等専門学校(弓削商船)の「みなかた」チームがいずれもパーフェクトを達成。2チームが1位で並んだ。この場合、ルールではサイコロを振って勝者を決めることになっているが、今回は特別に、もう1試合行って雌雄を決することになった。高専プロコンの競技部門で優勝決定戦が行われたのは初めてだ。同時に読み上げるカルタの枚数は最高の20枚。2分割した合計2秒間の音声データが出題された。

 結果、両チームとも取り札の選択はパーフェクト。しかし、解析に2秒のデータを使用した弓削商船に対し、1秒の解析だけで正解した大阪公大がポイント差をつけ、優勝をもぎ取った。3位は松江工業高等専門学校の「せふとくたいしのつくりかた」チーム。1回戦は7位で敗退したものの、敗者復活戦で勝ち上がり、3位に滑り込んだ。

 作品部門は「オンラインで生み出す新しい楽しみ」をテーマにした課題部門と自由部門で実施。予選を勝ち抜いたのは合わせて40チーム。それぞれプレゼンテーションとブース展示のデモンストレーションで争った。最優秀賞・文部科学大臣賞には、課題部門で函館工業高等専門学校(函館高専)の「HEXELLENT!」が、自由部門では東京工業高等専門学校(東京高専)の「お遍路さんー未来につなぐ、お遍路文化ー」がそれぞれ輝いた。

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函館高専の「HEXELLENT!」。新たに開発したヘキサユニットと名付けた実際のゲーム盤を使うことで、遠隔地の相手と実際に対面しているような感覚でゲームができる

 函館高専の「HEXELLENT!」は、オンラインでありながらオフライン感覚で遊べるボードゲーム。囲碁や将棋のようなボードゲームはオンラインで対戦していても、駒を動かすリアルな感覚が欲しくなる。離れた場所でもオフラインのような感覚を得ることを目指して開発した。HEXELLENTはヘクセレントと読み、5角形を表すヘックスとエクセレントを合わせた造語。5角形の盤面に広がる5角形で細かく区切られた陣地を塗り広げていく陣取りゲームだ。最大の特徴は、ヘキサユニットと名付けたゲーム盤。自分の駒は自ら操作してゲームを進めるが、相手の駒は自動で動く。VRとは異なり、実際に駒が動くことで、相手が遠隔地にいても、あたかもそこにいるような感覚でゲームを進めることができる。

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東京高専の「お遍路さんー未来につなぐ、お遍路文化ー」。開発の途中で実際に四国でアプリを使い、関係者からの取材などから問題点を抽出、それらほとんど解決して実装したという

 東京高専の「お遍路さんー未来につなぐ、お遍路文化ー」は、コロナ禍もあって、お遍路さんの減少が著しく、このままではお遍路文化が消えるかもしれない、という危機感から制作した。「お遍路みち案内機能」「コミュニケーション機能」「デジタル御朱印機能」などを備え、お遍路巡りをサポートするアプリだ。特に「お遍路みち案内機能」は、データをダウンロードすることでオフラインでも利用できるのが特徴。文献調査に基づいた、歴史的に正確なお遍路みちのデータも格納し、Google Mapなどにはない細かい道なども示すことができる。距離だけでなく高低差の表示も可能で、体調に合わせてペース配分ができるよう工夫されている。翻訳機能も備え、外国人でも利用できるようになっている。

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閉会式で挨拶に立つ、文部科学省高等教育局の西條正明 審議官

 閉会式では、高専プロコンを後援する文部科学省より、高等教育局の西條正明 審議官が挨拶に立ち「コロナ禍であらゆる場面でのデジタル化が進んだ。AI、データサイエンス、情報セキュリティなどの重要性がさらに高まっている。これらを支える人材の育成もますます重要になってきた」とし、「高専プロコンは時代にマッチしたものになっている」と話した。また「自由部門では自ら社会課題を見つけ取り組む姿、課題部門ではコロナの厳しい状況を逆手にとっ楽しく過ごそうとする取り組み、また競技部門の決勝では、両校互角の大接戦に触れて、それぞれ感動した」と感想を述べた。さらに「プログラミングの能力はもとより、若い感性と想像力に圧倒された。熱い想い、パッションに触れてうらやましくも感じた。高専の技術者教育のレベルの高さを再認識し、我が国のイノベーション創出を担う優れた人材が確実に育っていると心強く感じた」と結んだ。

 コロナ禍でのオンライン開催を経て、リアル大会に戻った第33回高専プロコンは、盛況のうちに幕を閉じた。次回の高専プロコン第34回大会は、2023年10月14日、15日の2日間、福井高専主幹に越前市サンドーム福井を会場に開催する予定だ。(ITジュニア育成交流協会・道越一郎)